Yes, but … などの小手先のテクニックで人は動かせない。
なぜならばそのテクニックを知っている人にとっては、少しの装飾で自分がなびくと思われていると感じ、嫌悪感しか沸かないからである。
恋愛指南書のとおりに動き、うまく相手を落とせたところで、心から満足を得られるのか?
自分の思い通りに動いてくれる人がパートナーとなったところで、自分がよりよく生きられるのか?
そもそも人をコントロールしたいと思っている人間は、その本心を見透かされたときに、相手がどう思うのか考えたことはあるのだろうか?
正直な心でしか人は動かせない。
自分だけが知っている、自分だけは特別だと思う心は悟られてはならず、独りの時間以外に持ってはいけない。
そもそも独りの時間でも自分を孤高だと考える意味はなく、虚しい刹那の高揚感が得られるのみであるが。
カーネギーの『人を動かす』も「自分ならどう思うか」「相手をどのくらい想うことができるか」が本質であり、絶対に守るべきフレームワークというニュアンスではなく、あくまで自己啓発という姿勢を崩さなかったはずだ。
そもそもビジネスでもフレームワークがそのまま使えるケースなんてほとんどなく、たいていの場合は複数のフレームワークを複合・変形して使用するはずである。
それが他者の圧力なんて通じないプライベートのコミュニケーションの場合は、なおさら凝り固まった考えは持つべきではない。
コミュニケーションは意思疎通。
自分がどう感じているかを明確にし、相手を慮り、もしも邪な考えを持ってしまったら今一度相手と自分の立場を鑑みる。伝えることが明確になったら、経験によって獲得した知恵で意志伝達を促し、適切に相手に届ける。
人が集まってコミュニケーションを取ることで大衆が生まれる。
人は大衆に抗うことができない。
コミュニケーションの取り方ひとつで大衆から責められる世の中だからこそ、「あなたは特別でやればできる」という孤高の人物像を描くためのノウハウコンテンツで自己肯定感を作り出すのではなく、「あなたも大衆の一部だよ」「人は動かせないよ」という事実をポジティブに捉え相互の思いやりを見直すコンテンツがもっと露出してほしいと切に思う。
人を動かす 文庫版
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本書の目次
◇PART1 人を動かす三原則
1 盗人にも五分の理を認める
2 重要感を持たせる
3 人の立場に身を置く
◇PART2 人に好かれる六原則
1 誠実な関心を寄せる
2 笑顔を忘れない
3 名前を覚える
4 聞き手にまわる
5 関心のありかを見抜く
6 心からほめる
◇PART3 人を説得する十二原則
1 議論を避ける
2 誤りを指摘しない
3 誤りを認める
4 穏やかに話す
5 “イエス”と答えられる問題を選ぶ
6 しゃべらせる
7 思いつかせる
8 人の身になる
9 同情を寄せる
10 美しい心情に呼びかける
11 演出を考える
12 対抗意識を刺激する
◇PART4 人を変える九原則
1 まずほめる
2 遠まわしに注意を与える
3 自分の過ちを話す
4 命令をしない
5 顔をつぶさない
6 わずかなことでもほめる
7 期待をかける
8 激励する
9 喜んで協力させる
◇付 幸福な家庭をつくる七原則
1 口やかましく言わない
2 長所を認める
3 あら探しをしない
4 ほめる
5 ささやかな心尽くしを怠らない
6 礼儀を守る
7 正しい性の知識を持つ
訳者あとがき